労働契約法改正について
2012/08/10|ビジネスコラム
平成24年8月3日、「労働契約法の一部を改正する法律」が参議院で可決され、同年8月10日に公布されました。
今回の法改正では、有期の労働契約について、労働契約法に以下の3つのルールが規定されました。
(1)無期労働契約への転換ルール(労働契約法第18条)
(2)雇止め法理の法定化(労働契約法第19条)
(3)不合理な労働条件の禁止(労働契約法第20条)
今回の法律改正のねらいは、非正規型労働者の主な契約形態である「期間の定めのある」労働契約を、「期間の定めのない」労働契約に転換させ雇用の安定化を図ること。
また、一般に有期契約労働者の賃金等労働条件の低いことを踏まえ、法律に明文化することで不合理な労働条件を改善させることです。
厚生労働省は、24年版の厚生労働白書で、経済の長期低迷やグローバル化の進展の中、企業が厳しい競争環境の中で人件費の見直しを行った結果、正規雇用は減り、雇用調整が柔軟な非正規雇用の労働者が大幅に増加したとしている。
また、その結果、失業1年以上の長期失業者の増加、所得の格差、雇用の格差、教育格差などの格差の拡大、また、非正規労働者は有配偶率が低いなどのデータも示し、非正規雇用の労働者の待遇改善を政策の重要事項としてあげています。
今回の法律改正は、この非正規雇用の労働者の雇用の安定化や待遇の改善を目指しています。この方向性は、24年10月1日に施行された改正労働者派遣法や、最低賃金の引上げ等にもつながっています。
要は、日本の社会で起こっている様々な問題のうち、貧困・格差や少子化、年金等の財政難などの諸問題を引き起こしている 大きな要因の一つが、非正規雇用の労働者の雇用の不安定化や低待遇であり、ここにメスを入れることで、打開を図りたいというねらいがあります。
一方、国際および国内の厳しい競争やデフレなどの経済環境に晒されている企業にとっては、「はいそうですか」と簡単に受け入れることは難しいと考えられます。
何らかの対策が必要になります。
特に、中小零細企業にとっては、その対応は難しいものになるものと考えられます。
なぜならば、多くの中小零細企業は赤字、あるいは黒字でもすれすれの黒字であり、これ以上の人件費の上昇を吸収する余力がないと考えられるからです。
雇用の安定化も難しい面があります。
中小零細企業は、景気の変動等の影響をまともに受けることが多いからです。
特に下請け製造業等では、大手の製造メーカーの生産調整をまともに受けることが多い傾向にあるからです。 ひどい場合は、0になってしまうことさえあります。
小売業やサービス業の場合は、大手小売業等の進出により、ライバル店との競争は常に厳しいものがあります。
あっという間に、顧客離れ、売上高が激減することもめずらしくない状況です。
このような時に、雇用調整がどうしても必要な場合があります。
また、中小零細企業の場合は、労働関連法令に精通していないことが一般的で、労務管理を適切にしていないケースが目立ちます。 労働契約の書面化、契約更新の管理および手続などもなおざりとなっていることも多いのです。
したがって、実際に雇用調整する際には、労働者の方とともめることが多く、個別の労使紛争にもつながっています。
今回の法律改正は、そういった中小零細企業の立場を益々厳しいものにさせることになると考えられます。
今回の労働契約法の改正ポイント
(1) 無期労働契約への転換ルール(労働契約法第18条)
同一の使用者との間で、複数の有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合において、労働者が無期労働契約への転換の申込みをした場合は、会社(使用者)がその申込みの承諾をしたこととなり、無期労働契約に転換することになります。
5年のカウントは、このルールの施行日(※平成25年4月1日)以後に開始する有期労働契約が対象となります。
したがって、施行日前に既に開始している有期労働契約は5年のカウントに含めません。
クーリングとは
6ヵ月以上の雇用の空白期間(同一の会社等で働いていない期間)がある場合は、その空白期間より前の有期労働契約は5年のカウントに含めないことができます。
これをクーリングと言います。
※通算対象期間が1年未満の場合は、その有期労働契約期間の2分の1以上の空白期間があれば、それ以前の有期労働契約は5年のカウントに含めないことができます。
詳細は、以下の表をご参照願います。
カウントの対象となる有期労働契約の契約期間 | 必要な空白期間 |
---|---|
2ヵ月以下 | 1ヵ月以上 |
2ヵ月超~4ヵ月以下 | 2ヵ月以上 |
4ヵ月超~6ヵ月以下 | 3ヵ月以上 |
6ヵ月超~8ヵ月以下 | 4ヵ月以上 |
8ヵ月超~10ヵ月以下 | 5ヵ月以上 |
10ヵ月超~ | 6ヵ月以上 |
(2) 雇止め法理の法定化(労働契約法第19条)
有期労働契約は、使用者が更新を拒否したときは、契約期間の満了により雇用が終了し、これを「雇止め」といいます。
「雇止め」については、労働者保護の観点から、過去の最高裁判所の判例により一定の場合にこれを無効とする判例上のルール (雇止め法理)が確立していますが、今回の法改正により、雇止め法理の内容や適用範囲を変更することなく、労働契約法に条文化(明記)されました。
(対象となる労働契約)
雇止め法理の法定化が適用される有期労働契約は以下の場合になります。
① 過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの。
※最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決(東芝柳町工場事件)の要件が規定されました。
② 労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの。
※最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決(日立メディコ事件)の要件を規定されました。
(効果)
上記の①、②のいずれかに該当する場合に、使用者が雇止めをすることが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めが認められないこととなり、従前と同一の労働条件で、有期労働契約が更新されることとなります。
(3) 不合理な労働条件の禁止(労働契約法第20条)
同一の会社等(使用者)と労働契約を締結している有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより、 不合理に労働条件を相違させることが禁止されることとなります。
(対象となる労働条件)
一切の労働条件が対象となります。賃金や労働時間等の狭義の労働条件だけでなく、労働契約の内容となっている 災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生など、労働者に対する一切の待遇等が含まれます。