Q.定期監督等の「監督計画」の策定の際に考慮されることとは
労働基準監督官の定期監督等は、監督計画に基づいて実施されます。
監督計画(事業場等選定等)は、各都道府県労働局の行政運営方針を踏まえ、以下のような各管内の事情を考慮しが策定されます。
管内事情と監督対象事業場の例
- 前年までの監督実績
多数の電話・投書等の情報あり
(この中には多くの労働条件確保上の問題が存在する可能性がある)
(例)情報から監督を実施すべき事業場 - 過労死等の労災請求件数の高止まり
(過重労働の防止が課題となる)
(例)長時間過重労働おそれある事業場(トラック、IT関連企業、各種小売、メーカー等) - 厳しい経済・雇用情勢を反映し、派遣労働者等非正規労働者の解雇等が発生
(例)大量整理解雇・派遣元事業場等 - 縫製業、金属部品加工業等に多数の外国人技能実習生がおり、賃金等について法違反が存在
(例)外国人技能実習生の受入事業場 - 石綿含有のおそれのある老朽化した建築物の解体が多数存在
(例)石綿障害防止の必要がある建築物解体工事現場 - 建設業、運輸業、製造業を中心に労働災害が多発
(例)建設現場や安全管理等に問題のある自動車・金属部品の加工等を行う事業場
労働基準監督における最近の主要な重点課題は
- 長時間労働の抑制
- 賃金不払残業の防止
- 賃金不払・違法解雇の是正
定期監督、是正勧告等の実施状況
定期監督、是正勧告等の全国件数
(単位:件)
H18年 | H19年 | H20年 | H21年 | ||
---|---|---|---|---|---|
定期監督等の実施件数 | 118,872 | 126,499 | 115,993 | 100,535 | |
是正勧告件数 | 102,808 | 108,917 | 103,790 | 91,615 | |
司法処理件数 | 1,219 | 1,277 | 1,227 | 1,110 | |
申告処理件数 | 40,234 | 40,254 | 44,432 | 48,448 |
(出所:厚生労働省)
労働者からの申告件数の増加が目立ちます。
これはインターネット等の普及により、労働者等も簡単に労働関連の法令や違反事例や、違反の場合の対応方法等を検索・アクセスすることができるようになったため、労働基準監督署等への相談や申告が増加したものと類推できます。
この申告件数が増加する傾向は、益々続くことが予測できます。
是正勧告等を通じて支払われた賃金等の金額の推移(全国)
H16年 | H17年 | H18年 | H19年 | H20年 |
---|---|---|---|---|
226億円 | 233億円 | 227億円 | 272億円 | 196億円 |
(出所:厚生労働省)
上記は、労働基準監督官が賃金不払残業で監督指導(是正勧告等)を行い、是正され支払われた金額(1企業当たり100万円以上の割増賃金が支払われた事案)の推移です。
労働基準監督官から、未払い賃金や時間外手当の支払等の是正勧告を受けた場合は、かなり大きな金額を企業が支払うケースもあり、企業にとっては死活問題となります。
定期監督等における労働基準法・労働安全衛生法に関する主要な法違反の件数等
業種ごとの違反件数および違反率(東京都 平成22年)
業種 | 違反件数 | 違反率 |
---|---|---|
製造業 | 721 | 79.8% |
建設業 | 3,109 | 56.4% |
運輸交通業 | 328 | 84.1% |
商業 | 2,383 | 80.6% |
保健衛生業 | 656 | 81.9% |
接客娯楽業 | 504 | 80.2% |
全体 | 9,469 | 71.5% |
(出所:東京労働局)
上記のデータは東京労働局のデータですが、違反件数では、建設業(3,109件)、次いで商業(2,383件)、製造業(3,109件)の順になっています。
また、違反率では、軒並み高いのですが、特に運輸交通業(84.1%)、保健衛生業(81.9%)、接客娯楽業(80.2%)、商業(80.6%)、製造業(79.8%)と高い違反率となっています。
労働者の危険性が比較的高い、建設業や製造業、運輸交通業で違反件数や、違反比率が高水準なのは問題点であると言えます。
違反項目と労働基準法違反件数(東京都 平成22年)
労働基準法の違反件数
労働基準法 | 違反項目 | 違反件数 |
---|---|---|
15条 | 労働条件明示 | 1,770件 |
24条 | 賃金不払 | 386件 |
32条 | 労働時間 | 2,911件 |
35条 | 休日 | 199件 |
37条 | 割増賃金 | 2,237件 |
89条 | 就業規則 | 2,025件 |
108条 | 賃金台帳 | 758件 |
(出所:東京労働局)
労働条件明示、労働時間、割増賃金、就業規則に関する違反が多い状況になっており、企業(事業場)の基本的な労務管理が問題として是正勧告等されています。
労働安全衛生法の違反件数
労働安全衛生法 | 違反項目 | 違反件数 | |
---|---|---|---|
10~19条 | 安全衛生管理体制 | 963件 | |
14条 | 作業主任者 | 159件 | |
20~25条 | 安全基準 | 1,252件 | |
20~25条 | 衛生基準 | 105件 | |
30・31条 | 特定元方事業者・注文者 | 474件 | |
45条 | 定期自主検査 | 134件 | |
59・60条 | 安全衛生教育 | 43件 | |
61条 | 就業制限 | 50件 | |
65条 | 作業環境測定 | 45件 | |
66条 | 健康診断 | 1,250件 |
(出所:東京労働局)
安全衛生管理体制(安全管理者や衛生管理者の設置など)、安全基準、健康診断に関する違反が多い状況になっており、基本的な安全衛生の環境や体制の問題として是正勧告等されています。